2007年8月28日火曜日

カンカイの語源は「カンカツ」か?

コマイの別名「カンカイ」の語源は「カンカツ」か?

 氷下魚(コマイ)という魚について、多くのサイトで「コマイというのはアイヌ語で『小さな音がする魚』」「カンカイはニヴフ語のカンカツが由来といわれる」としています。コマイが本来アイヌ語なのか、日本語なのか、という問題は難しすぎて簡単には結論できないでしょう。コマイのアイヌ語呼称はいく通りか採録されており、その中に「コマイ」も入っていますから。もちろん、だからといって日本語からの借用ではないとは言い切れません。ただ、アイヌ語で「小さな音がする」というのはあくまでアイヌ語における語源説のひとつです。「コマイ」という単語は単に魚の名称にすぎず、意味は不明というべきです。「小さな音がする」という意味では通常用いられない単語ですから。日本語で「こまい(細かい~小さい)からコマイと呼んだ」というのと同じくらい怪しい語源説です。

 一方「カンカイ」はというと、アイヌ語のサハリン方言ではカンカイ、ニヴフ語ではカンキ゜(キ゜は鼻濁音)と呼びます。ほかにも馴鹿などアイヌ語サハリン方言で~カイ、ニヴフ語で~キ゜という例があります。これらが北方的要素だとみて、どうやらニヴフ語からアイヌ語に借用したのではないかと考えるわけです。

 で、ニヴフ語には「カンカツ」という単語はありません。少なくとも今いくら調べても出てこない。江戸時代の日本側の記録にあるのかもしれないけれど、私は見つけていません。一番ありそうなのは、手書きの平仮名で「かんかい」と表記したのを「かんかつ」と読み間違えたという可能性です。もちろん検証していません。誰か確認してください。

 追記。WEB上では「ニヴフ」を「ニブヒ」と表記しているサイトが多い。ところが、カンカイの由来に関する限りはみな「二ヴフ」か「ギリヤーク」です。「ギリヤーク」は直接にはロシア語から借用した日本語です。「ニヴフ」を採用している「最大手」はWikipediaです。そこからのコピペが多いのでしょう。

2007年8月25日土曜日

トンコリの形状

トンコリの形状は「女体を模したもの」か

トンコリの形状はほぼ丸太を縦割にして刳り貫いたままです。つまり細長い。これを「女性の身体を模している」とする説が流布していますが、これは誤りです。「人間の身体にみたてられている」というのが正しい。トンコリを構えたときに上になる方を「頭」、下になる方を「尻」とみなし、下に位置するアザラシ皮を「陰毛」とみなす、というのは確からしい。しかし、これは「みなし」であって、もともと「模し」て作ったわけではない可能性が高い。

アイヌ語の世界では、細長い形状のものには原則として全て「頭」「尻」の二方向があるとみなします。鉛筆だろうがマッチ棒だろうが「頭」と「尻」がある。トンコリにも当然あるのです。日本語でもそれに近い現象はあります。

トンコリの場合「陰毛」「へそ」などの部分名称も記録されており、鉛筆よりは人体としてのみたての傾向が高いのは確かです。また、かつての弾き手が「トンコリ」を人間のようにみたてていたのも確かです。しかしだからといって「模している」とは限りません。

2007年8月22日水曜日

Wikipedia「アイヌ」の説明と「アイヌ文化成立」について

Wikipedia「アイヌ」の説明と「アイヌ文化成立」について

 2007年8月22日現在で、Wikipediaの項目「アイヌ」は「編集半保護状態」つまり未登録者が編集できないようになっています。つまり「編集合戦」が起きていたということです。だからといって問題があるとは限りません。編集合戦自体は内容の当否と関係ないかもしれません。また、Wikipediaは刻一刻と内容が変化していきますので、今後良かれ悪しかれ当ブログの指摘が意味を失うことでしょう。しかし今のところ、Wikipediaは実質上WEB上の標準的情報源となっているようですので、随時とりあげていきます。

(1)以下引用「アイヌの社会では、アイヌという言葉は本当に行いの良い人にだけ使われた。丈夫な体を持ちながらも働かず、生活に困るような人物は、アイヌと言わずにウェンペ(悪いやつ)と言う。」引用終り。

これは誤りです。日本語でも「人でなし」と言うことはありますが、それを以って「悪い奴は『人』と呼ばない」と限られた紙面内でまとめるのは不適切ですね。それと同じことです。もともと引用元となった文章を書いたひとはかなりの文章家ですが、Wikipediaでの引用はうまくいっていませんね。

(2)以下引用「アイヌ文化は北海道で13世紀に成立した。」引用終り。

百科事典としてこのような文は誤りです。13世紀以前には史料がない(考古資料しかない)というだけで「アイヌ文化がなかった」とは誰も言っていない。考古学上は「大きな人口移動は無かった」と考えられており、それ以前もアイヌ語を話す人間集団がずーっと住んでいた。そもそも「13世紀に成立」は「中世アイヌ文化」の成立に関する概念であり、アイヌ文化全体に敷衍するのは無理です。「日本文化は明治維新により19世紀に成立した」というのと同じくらいばかげた表現です。

ポリシー(1)

 当ブログは、私の公私の活動においてあくまで余技です。扱うのは主にアイヌ語・アイヌ伝統文化関連のものです。他のWEB上コンテンツへの批判をするものです。しかも匿名です。したがって当サイトの内容に重みはありません。

 WEB上のコンテンツが2007年現在で、数年前に比べて明らかに変容してきていることへの対応として設置しました。簡単にいえば、現状ではコンテンツはヒット数によって上位に上がって行きます。特にマイナーな分野では、問題のあるコンテンツの内容が無限にコピーされ、流布していくケースがあとを絶ちません。しかしこの日誌は、そういった均質化したコンテンツ群を「正しく修正する」のが目的ではありません。情報検索において、単にノイズを混ぜることを目的とします。

 具体的にはWEB上の他のサイト・ブログのコンテンツに対する疑問、事実関係の問題点を書いていきます。これは他のコンテンツに対する攻撃ともなりえます。WEB上には「書きっぱなし」を自認する方々もおられるわけで、批判は迷惑でしょう。したがって無名のサイト、無名のブログに対して名指しで批判するつもりはありません。

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